約 435,262 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3034.html
ドクター86 流された水着は取り戻したのだが、メイの泳ぎは覚えたばかりの犬かきである 下流に向かううちは良かったのだが、水着を掴んだ状態では上手く泳げず、上流へ戻るには勢いが全く足りなかった やや騒動の中心から離れた場所でよじよじとプールサイドに這い上がり、プールサイドでは走らないという注意を律儀に守り水着を握り締めてぺたぺたと歩いていった そんな姿を狙撃銃のスコープ越しに遠方のマンションの屋上から眺める黒服女、アンネローゼ 「うーん、やっぱこの町の都市伝説密度は異常だわ。さっきの男って朝比奈秀雄よね……アレと既に知り合いなのかな? ゆーくん達だけならバレても逃げ切れるけど、あれだけ色々いたら無理だわ」 諦めたように構えを解き、銃を分解してケースに収めていくアンネローゼ 「それにしてもプールかー。いいなー、こっちはこんな暑いのに仕事で、しかも上手くいってないのに」 水着を脱がせて騒ぎを起こし、結果として都市伝説集団の密度を高めてしまった変態達を焼き払ってしまいたい衝動に駆られるが、それも結局自分の存在を悟られる結果になるだけなので自重する 「ま、この調子じゃ狙える状況じゃないわね。アイスでも買ってこよ」 ――― 「平気、もう大丈夫だから、やめっ、やめー」 「んー、やっぱり若いと肌の張りが違うわね。今のエルフリーデもしっとりもちもちしてて良いのだけれど」 プールサイドで沙々耶が胸を隠すために羽織ったバスタオルの下に両手を潜り込ませ、バスタオル越しにも判るほどに思い切り揉みしだくトライレス つい先程まで溺れた沙々耶のための心配蘇生手順に基づいた意識確認が、いきなりこれである 「先生、いい加減にしましょう。公共の場でやり過ぎです」 「あらエルフリーデ、遅かったわね? そういうあなたも、公共の場でなければやるんでしょう?」 「TPOぐらいは弁えます。というか溺れた相手へそういう事をしてどうするんですか」 「ちょっと水を飲んだだけなのは確認してるし、気付けみたいなものよ。何でも四角四面に捉えてると場の雰囲気が暗くなるわ」 笑顔のままでも手は止めないトライレス その視線がつぅっとスライドしていった先にいたのは、ぞんざいに水着を身に纏ったパスカルの姿 武術の達人ですらその初動を見逃したであろうトライレスの動きを、ずいと間に割り込むようにして封じたのはヘンリーだった 「あら、やるわね?」 「乙女は守護するものだからな」 「俺は乙女じゃねぇっつーの。それより、今ここで何が起きてる?」 「さあ……水中に、水着を剥ぎ取って流してしまう都市伝説がいるのは気付いてたけど」 「気付いてたなら注意しろよ!?」 ヘンリーの後ろからパスカルが思い切り怒鳴りつけるが、トライレスは悪びれた様子も無く微笑を浮かべる 「危険は無いと判断した以上、水着を剥いで回ってくれる都市伝説なんて素敵なものを退治したら勿体無いでしょう?」 「被害出てんだろうが!? 溺れたんだろ、この子が!」 パスカルに指をさされて、胸を揉まれ続けているせいか指摘のせいか、顔を真っ赤にして俯く沙々耶 「水着は流されたけど普通に泳げないだけよ、この子」 「水着が流されなきゃ派手に溺れたりはしなかったんじゃないのか?」 「かといって、警戒心丸出しで片付くまでは遊べない、なんてのも可哀想じゃない」 水中では既に一部の契約者や都市伝説と、黒幕らしい水霊の戦闘が始まっている 「戦うにしても相性が悪いわ。私が戦ったら水の中にいる子達がみぃんな死んじゃうし。かといって……液体状の軟体相手に対抗できる子、いるかしら?」 このメンバーの中でまともに戦えるのは有羽だけで、その能力は殴打が普通に通用する相手でなければ発揮できない 「あの戦闘バカ、肝心な時にいねぇんだから……」 非実体の神すら叩き斬る武人は、とっくの昔にこの場を離れている 頭を抱えるパスカルを尻目に、トライレスは視線をプールの外へと向ける 一見すれば空を見ているようにも見えるその視線の先は、遠くに見えるマンションの屋上 「色々戦闘がこなせる子、うちにも欲しいわねぇ」 やがて、デリアと沙々耶の水着を取り戻して戻ってきたメイだが 溺れた沙々耶が脱がした末に流されてしまったコンスタンツェの水着は未だ回収されておらず、プールのどこかを漂っているのであった 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2397.html
×月○日 今日から、日記でも書いていこうかと思う どうせ私のことだから、三日坊主で終わるか気の向いた時だけ書いていくかどちらかだろう ただ、何となく、始めて見たくなったのだ それを阻止する権限など、誰にも存在しては居ない 何故、始めてみたくなったかと言うと、書き記したいことが今日、二つあったから 良い事と、悪い事 まずは、悪い事から書いていこうと思う 腹が立つことを書いた後に、愉快な事を書いた方が気分的にもいいはずだ 今日、親から今度見合いをしろと言われた 式は卒業式の翌日に予定している、とも言われた どうやら、何度か見合いをさせて、私が高校生の間に結婚相手を決めてしまおうとしているらしい これは何か?私には男を見る目がないと? 家に男を何度も連れ込んだのがそんなに駄目だと言うのか どれもこれも、あの瞬間は愛した男なのだから、問題はないだろうに これだから、旧家と言う奴は何もかもこ煩くて困る 貧乏でもいいから、普通の家に生まれたかった あの親が決める見合い相手だ、どうせ、堅苦しい詰まらない男ばかりだろう 誰が、結婚相手など選んでやるものか 親が連れてくる見合い相手など、全て選んでなどやらない 全て、断り続けてやるのだ さて、良いことを書き始めようか 今日、私は「都市伝説」と言う奴と契約した 都市伝説、そんなものが実在するとは思ってもいなかった だが、それは実在して、しかも人間と契約までしてしまうらしい それに、私はたまたま選ばれたのだ 口裂け女や人面犬みたいな、ちゃちい都市伝説じゃない もっともっと、凄い物だ 多分、この力をもってすれば、様々な悪事を行う事ができるのではないか、と思う だが、私は別に悪事を行うつもりはない じゃあ、この力はどうしようか? 万が一、どうしようもなくなった時、この力に頼ろうと思う 少なくとも、私や、私が護りたいと思ったものを護るくらいはできるはずだ ただ、その為にはちょっと練習が必要だろう 今度から、少しずつ練習しようと思う 生き物で実験するのは残酷だ、石とかそう言う物で実験してみようと思う (ここから一ヶ月以上、記述はない) △月◎日 まいった 親が連れてくる見合い相手なんて、選ぶつもりはなかったのに 今回の男は、どう言う訳か気に入ってしまった そいつも、また堅苦しそうな男だ だが、今までの相手とは、決定的に違う部分があったのだ 今までの男達は、皆、こちらの両親の顔色を窺っている、つまらない男ばかりだった だが、あの男は違った 私の両親の事なんて、多分、踏み台程度にしか思っていない 私のこととて、出世の道具とか見ていないだろう あのふざけた両親の顔色を疑ってこない そして……私のことを、とことん、支配し尽くそうとしてくる相手 面白いじゃあないか 私を支配する? やれるものなら、やってみろ 両親や教師すらさじを投げた私を、支配してみるがいい もし、私を支配し尽くす事ができたならば、私はお前に完全に惚れてやろう 結婚相手、と言うよりは、まるで決闘相手のような感覚 明らかに間違っている方向だとはわかっているが、とにかく、今回の相手は気に入ってしまったのだ 気に入った理由は告げず、ただ気に入ったとだけ告げたら、両親はさっさと結婚の話を進め始めたようだった 速すぎるだろうに、まだ私の卒業まで一年は残ってる あれか、そんなに逃げ道を消したいのか 見合いを持ち込まれまくってる時も男を連れ込んだりしていたのがそんなに気に食わないか 悪いか!!! 人生なんぞ、一生に一度だ とことん楽しまなきゃつまらないだろうに ところで、都市伝説の使い方だが、結構慣れてきた 最近は、飛んでいる虫相手なら、躊躇なく扱えるようになってきた あれよ、あれ 害虫駆除くらいならいいわよね、問題なんてない、うん ただ、それ以上多きな生き物相手、となると、流石に気が咎める 多分、その気になれば人間相手にだって発動できるのだろうけれど… 使う日が来ない事を、祈るばかりだ (ここから、一年以上記述はない) ●月□日 自分の中で、命が育っている感覚 それが、酷くうれしかった あっはっはっはっは!!!ざまぁみろや、両親め!! 見合いとは言えできちゃった結婚だ!! どうだどうだ!お前らの顔にドロをぬってやったぞ!!!! あぁ、もう、傑作傑作 堕ろせとは言わせない これは、私の中で育っている命なのだ 私が産み落とす予定の命なのだ 誰の自由にもさせるものか 籠の中で育てられた私とは違って、この命には自由に生きて欲しいと願っている 私と違って、幸せって奴を感じて生きて欲しいものだ 名前は、もう決めている 旦那になる予定の奴には相談なんてしていない だって、面白味のない名前を提案してきそうだし 男でも、女でも、どっちでも、もう名前は決まっている 翼 だ 翼をもった鳥のように、自由に生きて欲しい その願いを、私はその名前にこめようと思う ところで、今日、初めて人間相手に能力を使った うわ、やっば、わりとグロかった 胎教に影響がでないか、流石にちょっと心配した まぁ、タバコは控えたとは言え酒飲みまくってる女のセリフじゃあないがね!!! でも、あれヤバイわ、まじヤバイ あれ、どうなったんだろう、死んだだろうか いや、正当防衛だけどさ 「他の男の子供できたから別れるわ」って言ったら、こっちを殺してこようとしたんだし それにしても、あいつも都市伝説契約者だったとは あれだ、都市伝説にも能力使ったんだけど……いやー、グロかった ダブルでグロいから、びっくりして逃げ出したわけで、本当、どうなったんだろう あれ、通りすがりの子供が見たら泣く事間違いない …御免、通りすがりの子供 そして、あの辺りのご近所さん 悪いのは、あそこで私に襲い掛かってきた包茎野郎、って事で (ここから、出産日まで記述はない) 前ページ次ページ連載 - 悪意が嘲う
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2746.html
翼がマドカと和解し、マドカも己の両親と和解…した直後に、マドカが両親と壮絶な親子喧嘩を始めたのはさておき とにかく、二世代親子の和解が成立した、その後の事… 「…そうか。「日焼けマシンで人間ステーキ」の青年は、朝比奈 秀雄とも和解できたのか」 「はい……まだ、完全に、ではないかもしれませんが」 それでも…関係は、改善されていっている その事実に、黒服はほっとしていた これからは、親子が憎しみあうような事がない事を、祈るばかりである 日景家本家からの、帰り道 舞が望と詩織と共に三人がかりで翼をからかって遊んでいるらしい様子を前方に見ながら、黒服はTさんに、今回の騒動の顛末などについて話していた ……なお、翼の隣には、獄門寺と花子さんもいるのだが、花子さんはリカちゃんと話していて翼が女三人に玩具にされている様子に気付いていないし、獄門寺は何を考えているのか、とりあえず、翼を助ける気はないようで …頃合を見計らって、翼に手を差し伸べてやらなければ 黒服は、こっそりと考える 「確か、朝比奈 秀雄の部下には、ゴースト&ダークネスの、ダークネスがいたそうだが…それは、どうなっただろうか?」 「ダークネス、ですか…秀雄さんとの戦いの時、あの場にいた青年を覚えていますか?」 「あぁ…随分と小さな悪魔の囁きを連れていた?」 「はい。どうやら、ダークネスは彼のところにいるようですね…片割れであるゴーストと、一緒に」 どう言う事だろうか?と首を傾げたTさん 黒服としても、その状況を知った時は、驚いた 「どうやら、ゴーストもダークネスも、子供のライオンの姿をとっているようなんです……当人達は、都市伝説として人を襲う事を、拒絶しているらしいです」 …その代わり、本来人食いである都市伝説 人食いをしない代わりに、食欲がすざましい事になっているそうだが… 「…とにかく、ゴーストもダークネスも、人を襲う事はない、と言う事か」 「そのようです」 もし、元の姿に戻って暴れられたら、大惨事になりかねないが …黒服としては、人を襲う事を拒絶したと言う、ゴーストとダークネスの考えを、信じてみたかった 人を襲う都市伝説として生まれたからと言って、必ずしも、人を襲い続ける必要などない ……都市伝説とて、生き方を変える事ができるのだ 真っ赤なマントを羽織った友人の姿を思い浮かべながら、黒服はそう考えるのだ 「藤崎 沙織や、鳥井 静香は?」 「鳥井さんは……少々、負傷してはいましたが、命に別状はありませんでしたし。今まで通り、秀雄さんの秘書として働くようですね」 罪の償い それもかねてのことだ ……マドカとは、微妙に火花を散らしたとか散らさなかったとか、という話も聞いているのだが 恋愛面には疎い黒服、その理由はよくわからない 「藤崎さんは、私の上司が身柄を保護しました。「タコ妊娠」との契約を解除させて…都市伝説絡みの記憶も、消去させたそうです」 「それは……彼女は、この騒動についての記憶を失った、ということか?」 はい、と頷く黒服 彼女は、自分が犯してしまった悪事すらも その記憶から、消し去られた 無意識下で、ある程度の記憶が残っている可能性はある だが、表面上、記憶は抹消されて……よほどのことがない限り、思い出すことはないだろう 「藤崎さんは元々、都市伝説に対しては恐怖心を抱いていた方ですから……悪魔の囁きに憑かれさえしなければ、都市伝説との契約など、勘が得なかったでしょうし、それに…」 「……よりによって、「タコ妊娠」だからな。正気に戻った時、それと契約してしまった事を認識すれば…心が、壊れかねない、か」 そう言う事です、と、黒服は少し悲しそうな表情浮かべた 事実、彼の上司が藤崎を保護した時、彼女は発狂寸前だったと言う 「タコ妊娠」と言う、女性にとっては嫌悪すべき都市伝説 少しでも遅ければ……もはや、精神的な死を迎えてしまっていたかもしれない 藤崎の無事を知って、翼もほっとしていた ただ、記憶が戻る事を恐れて、彼女と接触するつもりはないようだが 「ユニコーンの契約者であるヘンリー・ギボンヌだが。あの男も、まだ暫く学校町に滞在するらしいな」 「………はい、そうなんですよ」 …Tさんの、その言葉に 軽い、頭痛を覚える黒服 Tさんが、怪訝な表情を浮かべる 「…どうかしたのか?」 「…その、ヘンリーさん、なのですが……何せ、「教会」お抱えの存在ですからね。それも、かなり重宝されていて、「教会」の管理下から出ることを許されていなかった程です」 そんな存在が、学校町に滞在し続ける …その事実に、軽い頭痛を覚える 「もし、万が一、ヘンリーさんが事件に巻き込まれて、大怪我をしたり命を落とすような事があれば…」 「……なるほど、理解した」 苦笑してきたTさん つまりは、そう言う事なのだ ヘンリーに何かあれば、「教会」が学校町に手を出してくる口実を与えてしまいかねない 恐らく、ヘンリー本人には自覚はないだろう だが、彼は今現在、歩く国際問題と言ってもいい状態なのだ ヘタにその自覚を持たれるよりはマシだが、どちらにせよ頭と胃が痛い問題である 彼を擁護している「教会」メンバーが、「教会」内でも穏健的な考え方である事が、唯一の救いか 「あまり、無理はしないようにな」 「…はい」 気遣うようなTさんの言葉に、黒服は苦笑してみせる 一応、騒動終結後、しばらく休みを取るように上司には言われているが …それでも、あと2,3日もすれば、仕事に戻るつもりだ まだ、悪魔の囁き・コーク・ロアの騒動の事後処理は山のように残っているし それに…… 「…黒服さん?まだ、気になる事が、あるのか?」 「……えぇ」 …今回の、騒動の発端 朝比奈 秀雄 彼の運命を捻じ曲げ、悪魔の囁きと契約するきっかけを与えてしまった、その出来事 「門条 晴海という女性についてです」 「…朝比奈 秀雄が口走っていた名前か」 そうです、と黒服はゆっくりと頷く 「あの時、あなたは、朝比奈 秀雄の運命を捻じ曲げたのは「組織」だと、そう言っていたな」 「はい…門条 晴海という女性を、殺してしまったのは…「組織」、ですから」 黒服の、その言葉に Tさんが、僅かに眉をひそめる 「…都市伝説関係者だったのか?」 「いえ、違います……どうやら、当時のHNoに、実験体として拉致されていたようなのです」 「…「組織」の闇の部分、か」 「はい……彼女が、どのような実験に巻き込まれてしまったのか。そこまでは、私の権限では調べられませんでしたが…非人道的な実験であった事は、確かなようです」 HNoの実験 それは、大半が非人道的なものであったと言う かつては、都市伝説に飲まれた人間を元に戻す研究などもしていたらしいのだが……それは、いつからか暴走を初め、誰にも止められなくなってしまっていた 門条 晴海という女性が巻き込まれた実験もまた、その非人道的な実験の一つであったと思われる 「彼女は実験体として5年間、「組織」の研究施設で囚われ続けた後、そこを脱走して………機密保持の名目で、殺されています」 「…「組織」の研究施設に囚われていた以上、嫌でも「組織」の情報を持っているから、か」 記憶消去、と言う手段すらとられず 抹殺する、と言う選択肢をとられてしまったのだ それは、脱走した彼女の対処を任せられたのが強硬派であったから、と言うだけでないのだろう 記憶消去では、何かの機会に記憶が戻る可能性がある …それを、恐れられたのだ それほどまでに、重要な秘密を知ってしまったという門条 晴海 一体、囚われていた五年間で何があったのか…調べたくても、黒服の権限では調べきれない 恐らく、当時の資料も大半が破棄されてしまっているだろう 「門条 晴海さんの一件は、今回の秀雄さんの件にも絡んできますし、それに…」 「それに?」 「…「組織」内で、門条 晴海さんと、同じ苗字を持つ人が、いるんです」 門条、という苗字は、決して多い苗字ではない どちらかと言うと、珍しい苗字だ 「それは、つまり…門条 晴海の、関係者?」 「わかりません、ただ、無関係ではないような気がして…」 もし、関係者であるならば 彼は、門条 晴海と言う女性を知っているのだろうか? …彼女が 「組織」に殺されてしまった事を…知っているのだろうか? 「……何か…そこから、悪い事が起きなければ良いのですが…」 「考えすぎだ…と、言いたい所ではあるが。確かに、珍しい苗字であるだけに、同じ苗字だと言うのは気になるな…どう言う人物なんだ?」 「門条 天地。モンスの天使と契約している青年です。元は過激派に所属していましたが、昨年、担当の黒服が変わって、穏健派に転向した事になってはいますね」 モンスの天使 その単語に、Tさんが反応を見せる 「…モンスの天使、というと。まさかだが」 「はい。昨年のマッドガッサー騒動の際、Tさん達が巻き込まれた無差別攻撃。それを行った人物です」 モンスの天使の契約者なんて、「組織」では一人しかいないし …それも、その召還されるモンスの天使が、弓矢ではなく、重火器を使い、しかも、可愛らしい少女の姿をとっているのだ そんなモンスの天使と契約している人間など、世界中どこを探しても、一人しかいない その天地の、以前の担当の黒服が、何者かに「殺害」され、それがキッカケで担当の黒服が穏健派の黒服に変わった、というのも、どこか引っかかる 誰かが、天地を過激派から、無理矢理引き剥がしたような そんな印象を受けるのだ 「本当に……何も、悪い事が起きなければいいのですが」 そう呟き、黒服はため息をついて …前方で遊ばれている翼を、いい加減救助すべき頃合になったことに気付いて 小さく苦笑しながら、望達に追いつくべく、歩調を速めるのだった -------いつか来るであろう脅威に、彼らが巻き込まれるかどうか それはまだ、誰にもわからない to be … ? 前ページ次ページ連載 - とある組織の構成員の憂鬱
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4777.html
水上 怜奈(みなかみ れいな) 「ダンタリアン」の契約者。19歳。 外見は小柄で背中が隠れるくらいの茶髪。 両サイドを頭の上で二つに分けて纏めた、いわゆるアスカヘアーで、派手可愛い服装が好み。 ごくシンプル(単純とも言う)な思考の我が道を行くお調子者。 学校町東区の某マンションで一人暮らしをしている。 「ダンタリアン」の「無数の顔」「幻覚を見せる」と云う設定を拡大解釈して、人間はもちろん都市伝説にも「変身」する事が出来る。 バイト先の古本屋の店長には頭が上がらない。 都市伝説「ダンタリアン」 ソロモン72柱の悪魔の一体。「善」「寛大」「善良ゆえの愚鈍」を司る。 無数の老若男女の顔を持ち、右手に本を携えて現れる。 その本には総ての生き物の思考が書かれており、他人の秘密や内心を読みとり知ることが出来る。 また、遠く離れたところにも幻覚を送る能力を持つ。 ページ最上部へ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/322.html
自分たちは、葬儀には参列しなかった …葬儀に参列など、自分たちはできる姿ではない 赤 二人とも、まとう衣装は赤 葬儀に相応しくない 自分たちは、この赤を脱ぎ去る事はできないのだ なぜならば、この赤は自分たちの証明 自分たちが、生きている証なのだから せめて、と花を供え、香典だけはあげてきた …自分たちにできるのはそれくらいなのだ 「…赤マント」 「うん?」 …ぎゅう、と 赤いはんてんが、赤マントの手を、しっかりと握り緊めてきた 「赤マントは……私の前から、いなくならない、です?」 「………」 じっと、じっと 不安げに見つめてくる赤いはんてん …今まで、生きてきて 何人もの人間の死に遭遇してきた はるか昔には、自分たちとて、人間に死を振り下ろしてきた そんな自分たちは、人間の生命に対し、やや淡白になっていた …そんな、自分たちにとっても 彼の死は衝撃的すぎた 都市伝説である自分たちにも、気軽に利用できる店 温かかったあの場所が、心無き者によって汚された それが、ただただ悔しく …そして 親しかった者の死は、都市伝説の心にも影を落とし、不安を生む 「…私は、君の前からいなくなったりなどしないよ」 いなくならない 死んだりしない …彼女から離れるつもりは、到底ないのだ 「だから、君も。私の前から、いなくならないでくれ」 「…当然なのです」 ぎゅう、と赤いはんてんが、しっかりと手を握り緊めてきた …その手が微かに震えていることに気付きながらも、赤マントはそれを指摘はしない ……どろり 心に、黒い染みが落ちる 復讐せよと誰かが叫ぶ (…だが) 軽く、首を左右にふる 復讐せよと誰かが叫ぶ 殺すな、と他の誰かが叫ぶ わかっている、知っている また、己の手を血で染め上げる事があれば …きっと、もう、自分は自分でいられなくなるだろう、と さようなら あなたは、もうここにはいない 皆、悲しんでいます 皆、嘆いています 皆のこの悲しみは、嘆きは ……あなたに届いていますか? Red Cape …ふぅ、と 葬儀会場を抜け出し、彼はタバコを咥えた …悲しみに満ちた、会場 その悲しみに、押しつぶされそうになる 「…あの時以来か」 久々に引っ張り出してきた喪服 これを着たのは、両親の葬儀以来だ 「……俺の方が、先だと思ってたんだがな…」 首筋に、触れる 恐らくは、自分の方が先だと思っていた そうなりかねない『理由』が、自分にはあるから …しかし、まさか マスター先に死ぬとは思ってもいなかった あの少年は、どうなるのだろうか 親子のような関係だったはずの二人 父親代わりのあのマスターに死なれてしまって…一体、彼はどうなるのか 「………」 首筋に触れ続ける …もし、自分が死んだら 弟がどうなるか、考える 思い出す …両親が死んだ日の事を 首のない、二人の死体を テーブルの上に乗せられた、二人の首を…見てしまった時の、弟の事を 「………っち」 くしゃり タバコを握りつぶす 考えても仕方ない その時がきたら、自分は精一杯抗うまでだ だが、もしかしたら… 「……なるべく、会いに行くのが遅くなるよう、努力しておくか」 ふらり、会場に戻る あの少年の今後の事を心配しながらも …彼はまだ、自分の首に触れたままだった …その事実を、俺はあの不良教師から聞かされた まだ高校生に過ぎない俺は、喪服なんて持っていなくて 学校の制服で、その葬儀に参列していた 俺の隣には、妹のお下がりの黒いワンピースを着た花子さんがいる 「……もう、会えないんだね」 寂しそうに、花子さんが呟いた ルーモアのマスターが、死んだ 詳しい事は、俺は聞かされていない しかし…普通の死に方ではなかったのだ、と直感する 都市伝説 それに絡んでいる存在 それが、普通に死ねるとしたら…きっと、それは奇跡なのかもしれない 俺だって 一歩間違えば、いつかは死んでしまうだろう 都市伝説との戦いで それでも 俺は、こちら側に踏み込んだ 花子さんの手をとった だから……その覚悟は、できている できていた、つもりだった それでも、知り合いの死に衝撃を受ける じわり 死への恐怖が、生まれる 「…けーやくしゃ?」 「ん…何でもないよ」 す、と、飾られた遺影に目を向ける 控えめに微笑んでいる笑顔 …もう、あれを現実に見ることは叶わない 自分にできる事は、冥福を祈ることだけ 残された、あの輪という少年が今後、無事に生活できるよう、辛うじてできることならばしてやりたい 所詮、真実を知らされてない自分にできることは …たった、それだけなのだ しめやかに行われる葬儀 その中で、嗚咽が絶える事は、いつまでも、なかった ずしりと、重い空気を感じる 両親の仕事の付き合いの葬儀には、よく出席してきていた けれど…ここまでに、参列者のほぼ全てが悲しんでいる葬儀など、初めてだった 「………」 じっと、遺影を見つめる 優しい人だった どうして、あんなに他人に優しくできるのか、彼女にはわからなかった 他人など、蹴落とすもの そうと教えられ、そして考えてきた彼女には理解できなかった …しかし こんなにも傲慢で、ワガママな彼女にすら 彼は、優しかったのだ くしゃり 赤い靴が、頭を撫でてきた 煩いわね、と振り払うと、代わりにハンカチを渡された 何よ、それをどうしろと言うの …涙を拭くため? 何よ、涙なんて… 「………ぁ」 つぅ、と 頬を一筋、温かいものが流れる …違う 涙なんかじゃない 私が、誰かが死んだことで涙なんて流すものか 違う、違う 悲しくなんかない 他人の死に、悲しみなんて… 「…無理するもんじゃない」 うるさい 煩い、煩い、煩いっ!! そんな事を言うな そんな事を言わないでっ!! あぁ、そうだ きっと、私は悲しいのだろう 私みたいな子供にすら優しかった、ルーモアのマスターの死が 詳しい事は聞かされていない ただ、それはあまりにも突然すぎて 「………」 赤い靴から渡されたハンカチで、乱暴に涙を拭く ……どうしても どうしても、マスターの死の真相が、気になった 彼の死を教えてくれた黒服は、詳しい事は教えてくれなかった しかし、聞き出そうとした私への…どこか、途惑っているような、悩んでいるような対応で、わかった マスターは、何かトラブルに巻き込まれて死亡したのだと もしかしたら、殺されたのだ、と 恨まれるような人ではなかったけれど あの人は、都市伝説に関わっていたのだ ありえないことではない 「………」 もう一度、遺影を見つめる もし もし、あの人を殺したのが、都市伝説ならば そんな奴、私が倒してやる これは、ゲームではない 私の復讐 都市伝説と契約していようと、所詮子供に過ぎない私には、それを殺すことはできないかもしれない しかし、もし、見つけたならば 徹底的に、痛めつけてやる 私のその復讐心が、伝わったのだろう 赤い靴は、生意気にも少し心配そうな顔をしつつも …しかし、私の決意に、釘をさしてはこなかった 前ページ連載 - 花子さんと契約した男の話
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1623.html
バールの少女・番外編 02 ソレが『組織』「本部」へやって来たのは、午後のお八つの時間を回ってからだった。 黒服?「おいたわしや……」 頭部をガスマスクで覆った黒服は、少女化した先輩の黒服の近くまで歩み寄って来た。 黒服?「嗚呼こんな、こんな身体になってしまって。ああもう、可愛いアホ毛まで生やしちゃって」 黒服Y「だれだっけ?」 周囲の黒服達の視線を集めながら、 目の前のガスマスク黒服は、よござんす、とばかりにガスマスクに手を掛けた。 黒服?「ん、あれ? 外れない! あ、あれ、ここがこうなって……。 む、ぐ、ぐぐ」 黒服Y「……」 ガスマスクを外そうと躍起になる黒服、 その様子に突き刺す様な視線を送る周囲の黒服達、 そんな中、黒服Yはガスマスク黒服の様子を見ながら―― 黒服Y「あ、もしかして"I"?」 黒服I「くおあああ! 外れない! 首、首が、しまるー!!」 * * * 黒服I「や、やあどうも、お久しぶりですY先輩」 数分の格闘の後、ガスマスクを脱ぎ捨てた黒服Iは まさに窒息寸前といった体だった。 黒服Y「ホント久しぶりだね~。あ、そう言えば 「辺境」に連絡入れたんだけど、誰も出てくれなくてさ。 全員出払ってるの?」 黒服I「実は、その事込みでお話したいのですが……」 そう言って黒服Iはチラと周囲に視線を送った。 先程まで痛いほどの視線を送っていた周囲の黒服達は ガスマスク黒服の正体がIだと分かると、何事も無かったように各自の仕事を行っている。 黒服Y「色々とアレな内容なんだね」 彼――尤も、今は彼女だが――の尋ねに、Iは小さく頷く。 黒服Yは黙ってIの袖を手に取ると、室外へとグイグイ引いていった。 黒服達の居るオフィス然とした部屋から出て、 無機質な印象を与える廊下を歩き、 黒服Yはとあるドアの前で立ち止まる。 すばやく左右を見回して、人の居ない事を確かめると 黒服YはIをドアの向こうへ引っ張り込んだ。 部屋の中は、使われていない小会議室のようだ。 この部屋には窓が無く、照明も切ってあるために 唯一の光は、床近くに設置された使途不明の青色ランプのみだ。 Yは後ろ手でドアを閉めた。 黒服Y「ねえ、後輩」 黒服I「どうしました?」 黒服Y「ワタシとアナタしか居ないからって、襲ったりしないでね」ウルウル 黒服I「……」 グーを作った両手を胸元に持っていき、やたら眼をウルウルさせるY。 黒服Iは口を真一文字に結んで、数秒の間両の眼頭を押さえた。 すぅぅぅぅ、と息を吐き出す。 黒服I「申し訳ありません、Yさん。その、何て言うか…… 悪ノリしてる時間が、あまり無くて、ですね……」 黒服Y「ごめん」 先程の表情から一転、Yは真剣な目つきでIを眼差した。 黒服Y「また、危ない事に巻き込まれたの?」 * * * 黒服Iは『組織』の中でも「辺境」という部分に属している。 無論それは「本部」の認可を受けたモノという訳ではなく、 事情を知る一部の間で通称として用いられている呼称だ。 「辺境」は――極端な物言いをするならば――『組織』から村八分を受けている。 そもそもの発端は、Iの上司である黒服Vが30年ほど前に「ある事件」に与した廉で その制裁として村八分を受ける事になった、という話らしいが 黒服Iはその辺の事情に詳しい訳ではない。 そういった事情があって、「辺境」のオフィスは「本部」内には存在しない。 黒服達の中でも「辺境」という存在を知らない者は多く、 知っていたとしても無視するか厄介者扱いするかのいずれかだ。 まともな対応を行ってくれるのは、黒服Yか禿の黒服くらいなものだし、 実際、「辺境」が手を付けた事件に関わる事も多かったのは、これらの黒服だった。 時折、黒服Iが『組織』に"出向"しては定例報告をおこないに来るのだが 用が済めば早々に引き上げてしまう。 このようにして、他の黒服に接触を図る事自体、何かあるのだという事――。 * * * 黒服Yの真剣な眼差しに対し、Iは慌てた様に突き出した両手をブンブン振った。 黒服I「いやいや違うんですよ。いえ、確かに厄介事には現在進行形で巻き込まれてますけど。 今回は、Yさんに渡す物があって来たんです」 黒服Y「渡す物?」 Iは懐から小さなガラス瓶、バイアルを取り出した。 差し出されたそれを黒服Yは黙って受け取る。 バイアルのラベルには黒字で"Rev-00.3(A-MG)"、 赤字で"対「マッドガッサー効果」用 「都市伝説」のみに使用する事"と記されている。 黒服Y「何これ」 黒服I「『マッドガッサー』のガス作用を解毒する薬剤です」 黒服Y「誰がつくったの」 黒服I「"マック"さんですよ」 黒服Y「ああ、黒服Mだね。なるほど……。 気になったんだけど、この"Rev-00"ってアレの事だよね」 黒服I「はい、そうです。「侵食率抑制剤」の事ですよ」 アレ――つまり、"Rev-00"とは「辺境」の事情を知る黒服達の間で 他言無用とされている薬剤である。 都市伝説と「契約」をおこなった「能力者」の中に 「取り込まれる」といった状態になる者がある事はよく知られている話である。 この「"Rev-00 侵食率抑制剤"」は「都市伝説」に「取り込まれ」、 「末期症状」に陥った「能力者」への使用を想定して作成された薬剤だ。 その名称こそ「抑制剤」だが、実態は「末期症状」にある「能力者」の 「都市伝説からの侵食率」を強制的に低下させるといったものだ。 黒服Mによると、『投薬試験のバイト』『脳は10%しか使われていない』といった 都市伝説から捻り出した代物らしいのだが、「辺境」の方針で『組織』へ報告はおこなっていない。 それ故に、その存在を知る黒服達もまたこの事を秘密にしている。 加えて、"Rev-00"の使用に際しても様々な禁忌や副作用が付いてまわる。 運用が非常に厄介な薬剤なのである。 黒服Y「確か、これって都市伝説自体への投与は危ないんじゃ?」 黒服I「ええ、"Rev-00"そのものは都市伝説への投与は禁止されています。 ただ、この薬剤"00.3"は"Rev-00"を基に作成された解毒剤でして "Rev-00"とは組成が全く違うから大丈夫らしいんですよ」 黒服Y「へぇー」 因みに、この薬剤を作成した黒服Mもまた「辺境」の一人である。 更に言うと、「辺境」のスタッフは上司であるV、部下のM、Iの3名のみである。 黒服I「この解毒剤の使用に関してなんですけど、2つ注意点があります。 まず1つは、「都市伝説」に対してしか投与出来ません。 そして、あと1つは――」 そこまで言うと、唐突にIの顔面の陰影が濃くなっていく。 背後からは「ゴゴゴゴゴ」という効果音まで響き始めた。 黒服Y「何だよ、早く言ってよ」 そして、緊張感が極限まで達した、その時。 黒服I「――臨床試験を、一切、おこなっておりません」パンパカパーン 黒服Y「……すごく危ないね、それ」 黒服I「あ、でも安心して下さい。"マック"さんが言うには大丈夫だそうですよ」 黒服Y「何故だろ、Mの言葉がすごく信用できない」 黒服I「とにかく、イザという時の為に取っておいて下さい」 黒服Y「くれると言うならなら貰っておくよ、ありがとう」 黒服I「あ、あとコレを」 そう言って、Iは再び懐へ手をやった。 黒い正方形のボックスを渡してくる。 黒服I「精神感応金属【オリカルクム】を含有するゴム弾です。64発しか用意出来ませんでしたが」 黒服Y「わあ、これが」 黒服I「"マック"さんの能書きでは、対象を一撃で昏倒させられる様ですね」 黒服Y「頭部か頸部、背骨に命中させさえすればね」 黒服I「あと効果は未知数ですが、霊体系の都市伝説にも有効だとか」 黒服Y「【オリカルクム】って入手しづらいからねー。 Mにありがとうって伝えておいて」 黒服I「あ、あとそれから」 黒服Y「なになに? まだあるの?」 黒服I「こちらは8発しか作成出来なかったらしいのですが、硝酸銀内臓の特殊弾丸です。 『マリ・ヴェリテ』に効果があれば良いんですけど。 ゴム弾と同様、殺害する事には向きませんが、無能力化する事は可能なはずです」 黒服Y「ありがとう。使うかどうかは別としてだけど。 使わないままであれば一番なんだけどね……」 黒服I「そう言えば、先程「辺境」に連絡を入れたとか何とか」 黒服Y「ああ、うん。 今マッドガッサーとかコーク・ロアとかで忙しいから 「本部」と一緒に動けないかなって思ったんだよ」 黒服I「そういう事だったんですか。 いやあ、実は「辺境」一同、辺湖市にいまして」 黒服Y「えー、自分達だけ避難したのー? 一緒に仕事しようよ」 黒服I「いえそれがですね、実は、知らない内に都市伝説と契約してしまったという 一般人の方がいましてですね、何やらパニック起してるようなんで とりあえず私達で落ち着かせてるという……」 黒服Y「そっかー、僕達じゃ辺湖に入りづらいからねー。 『イルミナティ』の目もあるみたいだし」 黒服I「実は……、その方の契約した都市伝説、『災厄を招く彗星』なんですよ。 最悪、彗星が地球に突っ込んで来ます。 そうなったら――"マック"さんの計算では地球の半分が消し飛びます。 悪い事に、その契約者の方、精神状態がかなりよろしくなくてですね……。 現地のフリーの「能力者」の方と説得をおこなってるんですけど……」 黒服Y「あはは、頑張れ。地球の命運は君達の仕事にかかってるぞ」 ポムポム 黒服I「いや笑い事じゃないですから! それ言うならYさんもメンドくさいとか言わないで頑張って下さいよ! 私達は支援に行けるかどうか分かりませんからね!」 それでは失礼しますよ、と黒服Iは暗い部屋から立ち去ろうとして―― 黒服Y「 I 」 呼び止められた。 Yは親指と人差し指を立て拳銃の形を取ると、Iに向けた。 黒服Y「死ぬなよ、後輩。――誰も殺すなよ?」 Yの言葉にをIはきょとんとした様子だったが、 やがて、ふ、と笑い、その言葉は先輩にもお返ししますよ、と応えた。 今度こそ失礼します、と言って、彼は「本部」を去った。 Yは依然、Iと秘密の会話を交わした暗い部屋に居た。 背中を壁にあずけ腕を組んだまま、目を閉じている。 黒服Y「分かってるさ、後輩。僕はちゃんと、分かってる」 彼は、少女の声で、そう小さく呟いたのだった。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3146.html
【上田明也の協奏曲26~同じ旋律は繰り返さない~】 プルルルルルルルル プルルルルルルルルルル プルルルルルルルルルルルルルル ツーツーツー 着信拒否である。 本日45度目の通信なのだがまったく通じない。 橙ともメルとも、携帯電話が通じないのだ。 事務所のメンバーごと、安全の為にサンジェルマンが何処かに匿っているとは言っていたが……。 「……電話に誰もでんわ♪」 語尾を明るくしたところで何も変わらない。 ハンニバルとの戦いで受けたダメージも少しずつ回復を始め、 わずかながら身体を動かせるようになっていた俺はメルに電話をかけていた。 よし、ここは素直に相手を変えよう。 プルルルルルルルル プルルルルルルルルルル プルルルルルルルルルルルルルル 「はい、彼方です。」 「彼方君、上田なんだけどそっちどうよ、吉静ちゃんとか元気かい?」 「あれ、上田さん僕たちが今事務所を離れているの知ってたんですか?」 「ああ、とっくに聞いているよ。」 「そうだったんですか?」 「ああ、天気はどうだい?あとメル達の機嫌が直ったら適当にお土産お願いね。 甘い物が良いなあ。」 「えー、今滅茶苦茶怒ってますよ二人とも。 上田さんがそこまで女にだらしないとは思わなかっただのなんだの。 とりあえずハワイに居ますからマカダミアチョコとかで良いですかね?」 「あっれ、ハワイだったっけか? そう、ハワイか……。 ハワイならまあマカダミアチョコだね。頼んだよ。 それにしても夏休みにハワイって羨ましいなあ…………。」 「指示通りお土産買っておきますから機嫌直してください。」 「ありがとよ、メルにごめんなさいと伝えておいてくれ。」 ……本当に、ありがとう。 あとは彼がこの電話のことをポロッと喋って女性陣にぶっ殺されないと良いなあ。 三秒後 イッツオートマーティッック ソバーニイールダーケデウンチャララチャラララテューラララー 急に携帯が鳴り始めた。 彼方からの電話だ。 俺に居場所を吐いたのが一瞬でばれたらしい。 誘導尋問にかけてごめんね! 俺はさっさと携帯の電源を切ると布団を被った。 「上田さん、起きてますか?」 純は友達と遊びに行くだか宿題が溜まっているだかでここには居ない。 そして男も容赦なく食べてしまうサンジェルマンと今部屋で二人きりだ。 「起きてる!超、起きてる! もう眼とかぱっちり! 身体も動くようになってきたし!」 誰でも良いから早く帰ってきてくれ! 流石に何時掘られるか解らないって嫌すぎるぞ! 「そうですか……、それならちょっと真面目な話良いですかね?」 「まあ良いけど……。」 「上田さん、今回の騒動であなたの容量が一時的に減ってしまった話はしましたよね?」 「聞いた、憑喪神が不味かったんだろう?」 「憑喪神だけが、とは言いませんがあれがかなり良くなかったのは事実です。」 「俺と今契約状態にあるのはメルだけだったっけか?」 「その通り、そこで提案したいのですが……。」 サンジェルマンは俺と契約していた村正を懐から取り出す。 彼が指をパチン、と鳴らすと彼の背後の空間が歪んだ。 「貴方の成長に合わせて、新しい都市伝説をプレゼントしたい。 ハーメルンの笛吹き、赤い部屋、蜻蛉切村正、憑喪神、どれも貴方の力を引き出しきれていない。 違いますか?」 そう言って、サンジェルマンは蜻蛉切を歪んだ空間の中に捨てた。 「私の持つ“オーパーツ”の都市伝説は、私自身の錬金術と併せて超巨大都市伝説群を形成しています。 ですから、『物』の都市伝説ならばそこそこ強力な物が手に入ります。 ですから探せば貴方の“言葉で人を操作する”能力も存分に生かせる都市伝説が手に入る筈です。」 「はぁん、それは良いね。 だが俺の能力値的に何か強力な武器を手に入れたからといって強くはなれないと思うな。 俺の異能はわざわざ戦闘に生かす必要は無い。 むしろ、生かすべきなのは俺の操作系都市伝説に対する適正だろうね。 俺は操作系と放出系の都市伝説に適正が有るんだろう? だったらそれを生かせば良い。」 「……成る程。」 「今言ったことの裏を言ってしまえば俺の弱点は近距離戦闘だ。 それを補うという意味では蜻蛉切は最高クラスの武器だったと思う。 容量さえ足りていれば適正も何も関係なく、一定の近接戦闘能力が手に入るんだから。 でもそれでも敵わない相手が居ると解った今、もはや弱点を補う意味は無い。 俺はそう考えているよ。」 「そうなんですか、私は戦闘が不得手ですから良く解りませんけどね。」 「そうなんだよ。 だから俺としては自分の操作能力を生かせて、 メルのように俺に反抗をしないで、 しかも単純かつ応用の利く能力が良い。 非人間型でなおかつ俺の意志を良く汲み取り従順な僕となる都市伝説。 俺の意志の元に変幻自在に運動する力場のような、純粋な武器としての都市伝説。 遠距離近距離どちらも同じ感覚で精密操作が可能な都市伝説。 替えが効いて常に同じ感覚で使用し続けられる都市伝説。 一つ、面白い心当たりがある。」 「なんですか?聞かせてください。」 サンジェルマンは興味深そうに目を輝かせた。 良かった、どうやら今回は掘られることはないようだ。 さて、数日後。 俺は歩行訓練も始まらないうちから厳しい修行を続けていた。 「お兄ちゃん、只今ー!」 「ここはお前の家か?」 「お兄ちゃんが居るところならそこが私の帰るところだよ!」 はぅん、可愛い。 何この可愛い生命体。 「そうか、恥ずかしいからそういうことあまり言わないの。」 「えへへへ、顔真っ赤にしちゃってえー! …………あれ?私が私が出かける前より傷が増えてないかな?」 「ああ、ちょっと新必殺技の修行をしていたから。 ていうか家族ごまかしてどうやってここに来てるの?」 「サンジェルマンに私の私の部屋とこことを繋げて貰っちゃった!」 「まあ便利設定。」 「とりあえずお兄ちゃん成分補充して良い?」 「俺はサプリメントか何かでしょうか。」 「むしろ主食だね!」 「はっはっは、こーいつぅ!」 最近この子の扱い方を心得てきた気がする。 ガシャン! ガシャン! 訂正、あんまり解ってなかったらしい。 「お兄ちゃん、良く解らないけど怪我するようなことなんてしちゃ駄目だよ! そんなこと私が私が止めちゃうんだから!」 今起きたことをありのままに話したい。 抱きつかれて俺がにやけた一瞬のうちに手錠でベッドに縛り付けられた。 超スピードとかチャチなもんじゃない。 もっと恐ろしいヤンデレの片鱗を味わったぜ……。 ていうかワンピースのどこに手錠を隠していたのかと。 「待て待て純、両手を縛られたら君を抱きしめられないじゃないか?」 「でもお兄ちゃんが怪我しないようにするためだったら……! その為だったら我慢できるよ?」 とりあえず説得を試みる。 甘い通り越して寒い台詞を使ったんだが駄目だった。 俺は新しい僕(トシデンセツ)を呼ぶ為に指を一回鳴らす。 それが鳴り終わるか否かの刹那、手錠は真っ二つになっていた。 訓練は完璧なようだ。 「純、君がどれだけお兄ちゃんを愛していても。 君がお兄ちゃんを縛ることは出来ない。 ―――――――――――――――――――良いね?」 手錠を壊した俺はすばやく純を押し倒すと下手に抵抗されないように両手を強く握った。 このまま口では言えないことをするのも愉快だな……。 いや止めよう、震えが酷い、彼女はこれから何をされるのか解っていない、怖がっている。 「もう一度聞くよ、良いね?」 「………………はぁい。」 震えはゆっくりと収まっていく。 そして不満そうだが、彼女は俺の言うことに従った。 「解れば良いんだよ、何時だって愛してるぜ。お前のチキンスープ、また作ってくれ。」 「うん!」 最後に優しい言葉をかけて心のケアをすることを忘れてはいけない。 彼女は善意から暴走してしまっただけなのだ。 コンコンコン ノックの音。 「入って良いぜ。」 「ああ、お取り込み中だと思ったんですが違いましたか。」 「流石にそれは無いよ。」 「そうですかね? 湖を望む古城で真昼間から二人で怠惰に淫らに身体をむさぼり合うとか中々悪くないですけど。」 「お前の場合は後ろに(ただし男同士で)がつくんだろうな。」 「いえ、女性もいけますよ私。」 「で、今日は何の用だ?」 「いやあ、練習の一環として模擬戦組んでみたんですけど、この後良いですか?」 「良いぜ。純、お兄ちゃんの為にチキンスープ作っておいてくれ。 辛くもないのに俺の舌を満足させるとは中々素晴らしい料理だ。」 「はぁい!」 俺はクローゼットからスーツを取り出して久しぶりに着替えた。 「そういえば模擬戦って相手誰よ、お前の知り合いか?」 「いいえ、私と仲の良い組織の人間、の部下です。 面白そうだから是非やろうと。 昼飯代かかっているんで負けないでくださいね。 ちなみにこれから行くのは組織の本部です。」 「組織?俺って確かあいつら警戒されていた気がするんだけど。」 「大丈夫ですよ、貴方はF№の黒服ってことになってますから。 ほら、これ見せれば一発です。」 ポン、とIDカードらしい何かを渡された。 本当に大丈夫なのだろうか……? 「この城を出るとすぐに本部まで飛ぶんで準備していてくださいね。 これサングラス、それかけておけばバレないでしょう。 まさか組織の本部に貴方が出入りするなんて誰も思わないですし。 どのみち私が貴方をこっそり使っているのとか公然の秘密なんで今更何も無いでしょうよ。」 「どーだかねー。」 「まあ不味くなったらこのパソコンで逃げてください。 赤い部屋を呼び出せるようにしていますけど、 吉静ちゃんの気分次第で閉じ込められるのであまりおすすめしません。」 「使う機会が来ないと願いたいね。」 俺は仕方なくそのパソコンを受け取ると懐にしまった。 「葉さーん、居ますか?」 サンジェルマンの城の地下道を抜けると、本当に一瞬で別の建物についてしまった。 どうやらここが組織の本部らしい。 それにしても片付いてない……何の部屋だ? 「あっれ居ない、おかしいな……。 すいません笛吹さん、少し待っててくれますか?」 「それは良いが喉渇いた。なんか飲み物無いか?」 「ああ、それならこの部屋を出てすぐの所に自販ありますよ。 コーラだけは絶対に飲まないように。」 「了解した。」 俺は誰の部屋か解らない部屋を出ると自動販売機を探した。 コカコーラと書かれた自動販売機を発見、恐らくこれだろう。 適当にお金を………… 「あっ。」 「あっ。」 「……お先どうぞ。」 タイミングはほぼ同時。 レディファーストということで、俺は目の前の彼女に順番を譲ることにした。 「ありがとうございました、見ない顔ですね……。 どこの所属ですか?」 俺はとりあえずIDカードとかいうのを見せてみた。 「F-№6……、なんか何処で見てもおかしくない気がしてきました。 貴方たち何処にでも居ますよね。」 「方針が『好きにしろ』ですからね。今日は№0と訓練がてらここに遊びに来ました。 貴方は……?」 「ああ、私はY-№の……。」 髪をツイン+1テールにした少女。 まあ仮にトリプルテールとしておこうか。 「あれ、前に私たち有ったこと無いですかね?」 「え、俺ってば貴方みたいな可愛い子に会ったら絶対忘れないと思うんですけどね…… なんちゃって。」 「はいはい、どーもありがとーございます。 えっと貴方は確か…………。」 次の瞬間、三尾の少女の表情が変わる。 彼女の顔には一瞬で警戒の色が露わになった。 「あぁ!貴方は!」 「やべっ!」 「お、二人とも居た居た。 サンジェルマンが転移能力の準備してるからさっさと部屋に戻ってきな。」 間一髪のところで後ろから声がかかる。 どうやらサンジェルマンが探していた人らしい。 おや、綺麗な女の子じゃないか。 【上田明也の協奏曲26~同じ旋律は繰り返さない~fin】
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1981.html
● マンションの外に出ると、そこには浅井が居た。青年は彼を、そして彼の背後で女性に担ぎあげられている少女を見て目つきを険しいものにする。 「……随分と早く来たものだな」 「なんカ対都市伝説警備係みたいなノに見つかっちまったみテえでな」 いや参ッた参った。と聞く者に違和感を感じさせる口調で浅井は言う。担ぎあげられていた少女が、 「Tさん! おっちゃんがなんかおかしいんだ! ≪組織≫からきた連中と戦う時にいきなり苦しみ出したと思ったらその後いきなり黒服の腕とか食っちまった!」 と首を捻って顔を青年へと向けて言うのに、 「ああ、分かってる」 と頷き、青年は浅井を睨んだ。浅井はおお怖イ怖いとおどけ、 「そウだ、あんたの契約者を返すゼ」 操られている女から少女を取り上げ、放り投げた。 青年はなにやら自分に対する扱いについて物を申しながら飛んでくる少女を受け止め、 「確かに……」 浅井を睨んだまま、腕の中で顔を赤くしている少女に気付くことなく安堵したように受領の言葉を述べた。浅井は更に、 「そうだ。足を返してやらナきゃいかねえな。――おい、ガキ。とっとと返してやレ」 そうさっちゃんへ命令した。「え?」と振り向くさっちゃんに浅井はまた告げる。 「聞こえなかったのか? 早く足を返さねえか、ガキ」 「う、うん……」 浅井の言葉に強烈な違和感を覚えながら、さっちゃんは少女へと奪った両足を戻す。 足は当然あるべき姿を取り戻すように何の抵抗も無く少女へとくっつき、 「おお、戻った!」 「本当に……よかった」 地面へと立って足の具合を確認している少女とその様子を見てほっと息をついている夢子を見て浅井はにこやかに言った。 「そうかそうかソいツはよかっタな」 「あっさり返すとは意外だな」 不審感を隠そうとしない青年の声、それを聞いた浅井は唐突に身を折り、狂ったように嗤った。 「…………くっククハハは! そリャそうだ! せっかくの食べる生肉が減っちマうのも嫌だしなァ! それにこの女ノ案内に任せりゃそこの≪夢の国≫ミてェな上等な上に食っても減ルことのねェ都市伝説の肉ガ食えんだからよォ!」 まるで正体でも現すかのように盛大に、凶悪に嗤いだした浅井に、ギョッとして少女が問いかける。 「おっちゃん! どうしたんだよ? さっきの≪組織≫の連中と戦ってからなんかおかしいぜ!?」 「契約者、下がれ」 青年が少女の前に出て有無を言わさぬ口調で言うのへ少女が抗弁する。 「Tさん、このおっちゃん本当はそんな悪い奴じゃ」 青年は、 「知っている、さっちゃんに聞いた」 答え、 「だが、コレはあの男ではない」 そう浅井を指さし告げた。 「――え?」 「どーいうことなの?」 言葉の意味が分からず疑問を呈する少女とリカちゃん。一方で夢子は哀しげな顔で「やはり、そうですか」と呟き、黒服が浅井の様子と先程あった連絡を重ねて思慮し、結論を口にした。 「……おそらく、彼は契約した都市伝説に取り込まれています」 「そうだな? 都市伝説」 青年が質し、 「アあ? 気づいテたのか?」 浅井がやはりどこか違和感を感じるひび割れたような声で興が削がれたように答えた。青年は浅井に――それを飲みこんだ都市伝説へと、応えるように浅井の事を口にする。 「あの男、元々復讐が成功しようとしなかろうと、もう普通には生きられないことを悟っていた」 さっちゃんを頼むと言ってきた男の真意を慮って言う青年は浅井の身体を乗っ取るモノへと誰何の声を上げる。 「お前は、〝どれ〟だ?」 答えは、再び上がった盛大な笑い声によってなされた。 「フ、は、ハハハはははハはは! 〝どれ〟か! そうだなぁ! 俺はコイツの中の都市伝説、その全テよォ!」 〝それ〟は語る。 「元々コイツには複数の都市伝説と契約するほど俺たチへの適応力なんザなかったんだよ! それを契約させテいたのが心の根本にあった復讐心ってヤつだァな。それがいざ復讐の対象に会って一度やリあったら復讐の意志が薄れやがった」 全く情けなイ。と首を振り、 「当然、そんな状態なコイツにいつまデも従ってやることもねえ」 だから飲みこんでやったと〝それ〟は言う。 「おとー……さん?」 豹変した浅井の姿をしたものへと呆然と声をかけるさっちゃん。〝それ〟はそちらを振り返り、再び命令した。 「ソうだ、おいガキ、俺と来い。お前の歌は餌を調達すルのに使えるからな」 その言葉はさっちゃんを道具として見るものであり、〝それ〟が浅井では、彼女のおとーさんではありえないことをさっちゃんへと理解させるには十分な言葉であった。だから、 「……」 「なンだ? その目は」 無言で〝それ〟を睨みつけた彼女は要求した。 「おとーさんを、返して」 大事な家族の返却を要求する言葉に、〝それ〟は肩をすくめて首を振り、 「何を言うノかと思えバ……やなこった」 答えるのも阿呆らしいとでも言いたげに告げた。さちゃんはそんな〝それ〟を見て、「じゃあ」と歌を朗じ始めた。 「さっちゃんはね、バナナが大好き――」 聴かせた相手を病へと陥れる呪歌はしかし、 「――あれ? 歌が……」 さっちゃんの疑問の声と共に中断された。その様子を見て〝それ〟は笑みに口の端を歪める。〝それ〟は時折ふらつきながら浅井を見据えている夢子を指さしながら、 「そこの特上肉にかけタ歌を解除されるわケにはいかねえし、俺は食らいたくはネえしナァ」 次に自らの体を指さす。 「まあ、この身体――契約者も本望だロうよ? ≪夢の国≫に娘を食った奴ヲ食い返しテやるんだからヨぉっ!」 そう言って夢子の方に向かって一歩を踏み出した。 「させるかよ」 言って、少女が立ちふさがろうとする。その肩を掴んで夢子が言った。 「どいて、ください」 「どけるか馬鹿。今の夢子ちゃんじゃあ危なっかしくて見てらんねぇ!」 少女が言い、それに何か夢子が反論しようとするが、その言葉が発されるよりも先に二人の前に立つ影があった。 「それはお前も同じだ、契約者」 そう言ってリカちゃんを少女の頭にぽんと乗せ、青年は〝それ〟に手を翳した。 「止めるノか? Tサん?」 契約者は返してヤったのニ。と〝それ〟が不満交じりに言う。 「止めるさ。暴走するのはその男の本意ではないだろうしな」 青年は当然のように答え、 「そウかい」 〝それ〟が言ったのと同時、乗っ取られた浅井の身体に異変が起きた。その胸元から青白い光と赤い燐光が強烈な光量をもって溢れだし、彼のスーツが、髪が、靴が、そして腕が、足が、首が――見渡せる範囲全てが人のそれからかけ離れた姿へと変異していく。 「なんだよこれ!?」 少女が叫び、 「都市伝説ですか?」 黒服が確認する。異形となっていく〝それ〟は己の身体の具合を確かめるように眺めまわしながら、 「≪放射能による突然変異≫ダ。立派なもんだロ?」 自身の事を自慢するように語った。 ≪放射能による突然変異≫、放射能は照射された物の細胞などを突然変異させるという都市伝説。 しかし、それを発動させるにはあるモノが必要だ。 「でも、放射能なんてどこにあんだよ?」 「そのネックレス」 青年が顎で示す先、異形の首から下がる赤い燐光を発する≪ホープダイヤ≫と共に揺れているもう一つのネックレス。青白く光っているそれは―― 「≪死を招くネックレス≫だ」 贈り物として贈られたネックレス、それを身に着けていた人間は変死を遂げる。原因はネックレスだった。その青白い石は宝石などではなく、ウランの結晶だったのだ。そういう都市伝説。 浅井が契約したそれは青白い石からウランのように放射能を発することができるようにするというもの、そしてそれは彼が契約している≪放射能による突然変異≫を場所を選ばず、更にネックレスが与える加護により対放射能性をも身につけて発動させることを可能とした。その結果が、 「その外殻と異常な膂力を引き起こす体内、そして同じく契約していた都市伝説であるさっちゃんの、二番目の歌の変異だろう。 防護が砕かれたのはそれらで陣の間を縫うように変異した呪いが原因だな」 青年が能力を見極める間にも〝それ〟の変異は進んでいき、木が無理やり倒されるようなメキメキという異音が浅井の身体の内部から響く。 「やめて! それ以上は……!」 身体の内部を変異させる異音にさっちゃんが悲鳴交じりに制止の言葉をかけつつ駆けだし、 「行ってはいけません! 彼はもう、あなたのおとーさんではありません」 今〝それ〟に近づいたら何をされるかわからない。さっちゃんが駆け寄ろうとするのを黒服が必死に止めた。 その間に完成した外殻を纏った異形の怪物は立ち上がり、そして言う。 「メシの時間だナ」 外殻に覆われた顔の奥から笑い声が轟いた。 「これは……」 呻くように黒服。 〝それ〟はまさしく異形の姿をしていた。その身は己が着ていたスーツ以外にもその場にあったあらゆるものを取り込んでより強固になった外殻に覆われ、人型の竜のような姿になっており、胸元からは厚い外殻を通しても尚、青白い光と赤い燐光がその異常な光を強く強く瞬かせているのが確認できる。 ――と、 「お兄ちゃんお姉ちゃん! 人が来るの!」 リカちゃんの注意を促す声が響き、 「こんな時にかよ!?」 少女が頭上からのその声に周囲を見回すと、 「げ、なんだよこりゃ!?」 ≪ホープダイヤ≫に操られているのか虚ろな目をした人々が公園内に殺到していた。 「都市伝説相手にはヤっぱり効かねえカ」 異形の呟きがあり、 「――まァいい、マズはそっちのヤつからとっ捕まえロ」 その命令の下、操られた人々が一斉に彼らへと突進した。しかもその数は、 「どんどん増えてやがる!?」 「あのひかりすごいつよいの!」 その言葉通り、周囲からはどんどん人が集まりだしていた。マンションの中からも次々人が出て来て少女たちを囲む輪の中へと合流している。 「これ以上≪ホープダイヤ≫に魅了される人間が増える前にどうにかしなくては」 黒服が懐から≪パワーストーン≫を取り出しながら言う。 「私が、やります」 夢子が支えられ、咳き込みながら、 「皆、お願い……っ!」 荒い呼吸のままに言葉を放ち、夢子たちを囲み人々から壁になるように黒いパレードが呼び出され――夢子は血を吐き倒れた。 「う……そ?」 その夢子の様子に驚いたのは他でもない、さっちゃんだ。 自身の力を増強していた物の内の一つを砕いたために大きな力を発してはいてもあくまで死ぬ寸前程度の効果しかなかったはずの能力がいきなりその殺傷力を強めたことにさっちゃんは驚き、王様が狂わないように己の能力を緩めようとして、 「二番が……? 二番がさっちゃんのそうさを受けてくれないよ!?」 突然の不測の事態に動転気味の声を上げた。 異形が笑みを含んだ口調で言う。 「≪ホープダイヤ≫が効かねえんならやっぱり都市伝説を食うのにはそのガキがいる方ガ便利ダなぁ!」 そして、跳んだ。 外殻を纏っていても尚パレードを飛び越える程の高い跳躍だ。そうしてさっちゃんの前に降り立った異形はその拳を振り上げ、 「二番は契約にヨって得タ能力だ。契約者ノ身体を乗っ取っている今、お前よりモ俺の方がそノ力の支配権を持ってるんダよ」 愉快そうに言い、 「ちょっと逃げられないようにしとこうかァ!!」 腕が振り下ろされた。 「嬢ちゃん! 逃げろ!」 少女の注意が飛ぶが、異形が発する慣れ親しんだ声から唐突に振るわれた拳にさっちゃんは思わず「ぁ」とどこか気の抜けた声を出し、動けない。異形の手はその無防備な頭へと迫る。 「っ!」 そこへ夢子が病の身体を無理に転移し、さっちゃんを抱き寄せた。 同時に夢子を蝕む正体不明の病が彼女の意識を揺さぶり、続く転移を阻害。夢子は地に倒れるように伏せることしかできない。 間近で振るわれる異形の拳を見て、夢子は初めに襲ってきた時に浅井が外殻を纏わなかったのはそれがあると重みの分拳を止めることが難しくなるからだと理解した。 浅井さんを乗っ取った都市伝説は私に会って彼の復讐心が揺らいだと言いました……。 あの時の拳はこちらを試すための拳だったのだ。夢子が避けていたらおそらくその拳はゲストの誰かに当たる前に止められたのだろう。しかし、今目の前のこの異形は間違いなく夢子ごと周囲の人々を殴り飛ばす。人外、異形へと変異した膂力だ。殴られたらただではすまない。 ふらつく視界で相手を見据える。あの時身を守ってくれたターコイズも今は無い。 しかし、 「待て」 腹に響くような音を立て、異形の拳が止められていた。それを果たしたのは体の各部位を淡く発光させた青年だ。青年は衝撃に対して険しい顔をし、 「≪夢の国≫を展開しろ!」 夢子へと声をかける。 「は、はい」 「コノ状態の拳も止めルのか……なんだか初めに会った時ミてェになったナ」 異形の感心したような言葉を無視して青年は異形を睨み据え、敵対の言葉を告げた。 「俺が病の夢子ちゃんに代わって相手をしよう。もともと王の頼みは≪夢の国≫を再び歪むるに至る呪いの元を止めること。そしてその呪いの元凶はさっちゃんではなく、お前だ」 「それデ俺を倒スってカ? ハハハ無理だな、そんな華奢な体じゃア無理ダ! 敵にナるんならお前ハ俺ノ餌、上等な肉でしかなクなっチまうヨ!」 楽しそうな異形の声がする。異形が再び拳を再び振り上げたその時、周囲、空間が侵食された。 足元の砂の地面がカラフルな石畳になり、周囲の遊具が消え失せアトラクションが立ち並び、乏しかった街灯がきらびやかなイルミネーション群にとって代わる。マンションや民家は全て異国の建物へとさし代わり、≪ホープダイヤ≫で操られていた人々の相手を捕まえ、櫓へと放りこんでいた≪夢の国≫の住人達とそれらが牽引するパレードが違和感なくその風景へと溶け込んだ。 そこはまさしく異国、≪夢の国≫内部だ。 「流石に速いな」 「い、え……こんなことしかできま、せんから……」 そう言って身を傾がせながら立つ夢子を青年の契約者の少女と≪夢の国≫の住人が支えた。 「ですが、これで新たに≪ホープダイヤ≫の効果に晒される人はいなくなりました」 呆然とするさっちゃんを抱き起こした黒服に頷き、青年は異形を睨み据えた。 祈る。 「お前を破壊できたら――幸せだ」 その幸せは直接的には叶わない。幸せに至るための可能性を≪ケサランパサラン≫の果たせる範囲において与えるだけだ。それは白い光の形で青年の身体へと現れる。そうして青年の戦闘準備が整えられていき―― ≪夢の国≫内部に強い強い戦いの気配が満ちていった。 前ページ次ページ連載 - Tさん
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3386.html
それは、中央高校の学園祭最中の事 「ふぅ…」 やれやれ、とため息をつく中央高校教師 自転車で来た訪問客の自転車を整理するという、地味だが体力勝負、なおかつ意外と大事な仕事である ちょっと、一息ついたところ 「高元先生、お疲れ様」 「あ…校長先生」 にこにこと 校舎内を見回っていた出道校長が、声をかけてきた どうぞ、とスポーツ飲料のペットボトルを差し出す 「暑い中、大変でしょう?水分補給はまめにしたほうがいいですよ」 「あ…すみません、ありがとうございます」 いただいます、と 校長の好意に甘える事にした高元 正直、かなり喉が渇いていた ごくごくと喉を鳴らす高元の様子に、校長は笑った 「どうですか?この学校の学園祭は」 「ぷは………噂では聞いていましたが、思っていた以上に賑やかですね」 学園祭の出し物を決める時のクラスの生徒達の様子などから、何となくは感じ取っていたが 当日の熱気は、予想以上だった これは、有名になる訳だ 納得である 「まぁ、勉強勉強ってばっかりじゃ、息が詰まるからね、たまには、はめを外させるのもいいんじゃないかな」 「はは、そうですな……はめを外しすぎるのも、問題ですが」 苦笑する高元 何というか…その 一部、ちょっぴりはめを外しすぎているところも、あるようなないような そんな予感がしないでもないのだ 主に、部活の方の出し物に 「…さて。高元先生も、そろそろ休憩時間でしょう?ご自分のクラスや、他の出し物も見て回ったらどうです?」 「え?…あぁ、もうこんな時間でしたか」 そろそろ、自転車整理は交代の時間だ やってきた他の教師に、後の仕事を任せ 高元はひとまず、自分のクラスの様子を見に行くことにしたのだった 高元の姿を見送り 校長はまた、訪問客や生徒でごった返す校内に入っていく 「…う~ん、やっぱり、契約者や都市伝説も結構来てるな………うわ、この気配、GW中に出現したっていうあれかな?厄介な……」 学校敷地内の都市伝説や契約者の気配を感じ取り、苦笑する校長 …彼は、契約都市伝説の能力により、校舎内ではほぼ、万能なのだ 気配を感じ取るくらいはできる 「大丈夫かな、とは思ったけど…やっぱり、やった方がいいか」 人波に、半ば流されながら しかし、彼は人気のない場所にたどり着き……周囲に、誰も居ないことを確認し こう、口にした 「『校則 第48条 学校敷地内での人死に、及び傷害を禁ずる』」 校長が、そう、口にした直後 中央高校の敷地が……強い、結界で覆われた 誰にも気付かれる事なくさりげなく、しかし、はっきりと 「…これでよし。でも、これ疲れるんだよなぁ」 ふぅ、とため息をつく校長 だが、これで……今日一日、校舎内にて、死人が出ることはない 怪我人が出ることも、ない ……学校敷地内を、完全に、絶対的に支配する それが、彼、出道 桐男が契約とした都市伝説の片方の力 これを破るには、よほど能力の高い者でなければ、不可能だ 「…さて、っと。荒神先生でもからかいに行こうかな」 疲れた体を、引きずって しかし、彼は、某不良教師をからかうと言う命知らずな事をすべく、鼻歌交じりで人波の中に戻っていったのだった 続く予定?ないよ!!! 前ページ連載 - 花子さんと契約した男の話
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1845.html
【上田明也の探偵倶楽部】 ベッドで思い切り寝込んでいる男性。 恐らく高熱が出ているのだろう、氷枕をしている。 まあ俺のことである、今俺は風邪を引いているのだ。 「こんにちわ皆さん、最近自分のここの所の生活がアニメ化できそうでわくわくしている上田明也です。 でも主人公と言うよりラスボスな気もして悶々しています。 探偵兼殺人鬼という厨二病全開過ぎて死にたくなる二足のわらじを履いているし行けると思うんですけどね。 まあ探偵の仕事、なんていっても依頼が来るのなんて週に一、二回ほどです。 しかも、都市伝説で仕事を終わらせてしまうのでお金も手間もかからないと。 殺人鬼の仕事なんてさらなりって奴です。 仕事ですらない。 何を言いたいかって言うとすごく暇なんですよ、ええ。 そんな暇なときはどうしているのかって? テレビかネットでも見て時間を潰すに限りますよ。」 誰かに語りかけるように独り言を呟く。 これを行わないと自分の日常が始まらない気がするのだ。 「マスター、生きてますか?」 いきなりの寝室のドアを開けて飛び込んでくる幼女、俺の契約している都市伝説「ハーメルンの笛吹き」である。 彼女の手の上には緑色のおかゆがこんもりのっかったお椀があった。 「うわ、やめろお前がおかゆなんて作るんじゃ……。」 「つべこべ言わずに食えよおらぁ!」 どうやら俺の昼食らしい。 「うに゛ゃああああああああ!?」 病人という存在の弱さとおかゆに有らざる苦みを口中で噛みしめながら俺はそのまま意識を絶った。 ああ、幾ら都市伝説を使いこなしても駄目な物は駄目なんだなぁ……。 【上田明也の探偵倶楽部5~真夜中の赤い砂嵐~】 あの悪夢のようなランチタイムから一体何時間経ったのだろう? 俺が目を覚ますとまず最初に時計を確認した。 真夜中の十二時。 なんということだ、12時間も眠ってしまっていたらしい。 酷く喉が渇いた。 腹も減っている。 体中が痛い。 頭はまるで捻子を突っ込まれたようだ。 思えば、あの謎の黒服達に追いかけられている夢を見てからずっとそうだ。 只の風邪ではないのだろうか? 「メルー、メルゥ?」 掠れた声で我が愛しの都市伝説を呼ぶ。 「うへへ、……これ以上食えません。」 隣で熟睡していた。 幼女の都市伝説が隣で寝ている。 どんな悪戯をしても問題無いだろう。 成る程、ロリコンたるこの俺にとっては風邪さえ引いていなければ中々魅力的な状況だっただろう。 今すぐ押し倒してこの天使のような頬や この世の美をすべてそこに集約した尻などを好きなだけ愛でてから 本丸に突撃するのも中々どうして魅力的だったろう。 「残念ながら俺も食えません、と。」 意味が違うわ、と一人ボケ突っ込みをしながら俺は冷蔵庫まで比喩じゃなく這っていった。 冷蔵庫を漁ると すっかりカラカラになったトマト ポカリスエット――――――恐らくコレを飲むべきなのだろう 安物の粉チーズ ケチャップ マヨネーズ ソーセージ 鯵の干物 が入っていた。 「ああ………。」 十二時間を無駄に過ごしてしまった後悔を噛みしめながらポカリスエットを胃袋にそそぎ込む。 カラカラに渇いた喉やもう何も入っていない胃袋が急な来訪者に驚いて活動を始めた。 それにしても腹が減る。 スパゲティをゆでることにした。 台所の隅に転がっていたタマネギを適当にバラバラに切り刻む。 カウンターに捨て置かれていたニンニクの欠片なども適当な感じで細かくしておこう。 フライパンにオリーブオイルを引いてゆっくりと暖める。 ジュゥワアアアア! ニンニクと一味唐辛子を入れて炒めると美味しそうな香りが立ち上ってきた。 麺の方も中々上手そうに鍋の中で踊っている。 眠りすぎて腐り落ちそうな頭が作り替えられていく。 鍋の中のゆで汁をお玉一杯、よりちょいと少なめにフライパンに入れる。 油とお湯が混ざって白濁し始めた。 麺の様子を見ると丁度芯が残っている固ゆでの状態だ。 ここで麺をフライパンの中に突っ込む。 白濁した液体と麺は絶妙な具合で絡む。 ここで火を止めてナンプラーと鯵の干物を刻んだ物も混ぜ合わせる。 アンチョビの代わりにはならないだろうが無いよりはマシだ。 皿を出して盛ると中々悪くない出来だった。 箸でにゅるにゅると噛みしめると何とも言えない幸せな気持ちになれる。 「中々良い出来だぞ、上田明也。お前もやれば出来る子じゃないか。」 自分で自分を褒めてから何とも言えない寂しさを噛みしめた。 「……寝るか。」 自分に言い聞かせるように独り言を呟いてから寝室に向かう。 まだ自分の体温が残るベッドに潜り込んで瞳を閉じた。 ちなみに我が探偵事務所はあまり広くないので基本的にメルとは添い寝である。 身体が冷えるので湯たんぽ代わりにメルを引き寄せた。 「だからもう食べられないってヴァ………。」 夢の中でも何か喰っているらしい。 本当におめでたい奴である。 「喰っちまうぞ。」 「うわ、ハンバーグが追いかけてきた!?」 メルが急にうなされ始めた。 ハンバーグに追いかけられる夢って大して恐ろしく思えないぞ。 「………今度こそ寝るか。」 俺はまぶたを閉じて頭の中を空っぽにした。 どれくらい時間が経ったのだろう。 時計を見るとベッドに入ってから30分ほど経過していた。 ―――――――――――眠れない。 仕方ないので隣に寝ている幼女に襲いかかろうかとも思ったが ニンニクまみれの口で襲いかかっても只の嫌がらせだ。 それは自分の美学に反する。 適当にテレビやらネットでもして時間を潰すとしよう。 自分の部屋に入るとテレビをつけて深夜の通信販売番組をながめる。 いかにも吹き替え翻訳っぽい声が面白いのだが結局は同じ番組の繰り返しなのですぐ飽きた。 次はパソコンのスイッチをオンにした。 ヘッドフォンをつける。 何か面白いニュースはないかと探し回ってみる。 「お、俺のニュースじゃないか。」 様々な犯罪についてまとめたサイトの中でハーメルンの笛吹き関係の物を見つけた。 中々噂に尾ひれが付いている物である。 どうやらこの国の人間には俺が警察組織の幹部の子供だと思われているらしい。 どこぞの漫画でもあるまいに警察幹部の子供が悪い奴ばかりみたいな物の見方はやめて欲しい物だ。 しばらくニュースサイトを見て回っていると画面上にいつの間にか知らないウインドウが出てきていた。 タブブラウザを使っているのでリンクで飛ぶときにウインドウが出る事なんてありえない。 カチッ! 試しにそれをクリックしてみる。 「あ/か Yes or No」 「おおこわいこわい。」 都市伝説の赤い窓ではないか。 この町はネットサーフィンものんびりできないらしい。 イエスもノーも押さないで放置しておく。 都市伝説などという物は関わらないに越したことはないのだ。 どうせ放っておけばそのうち消えるだろう。 「スーパーハッカーだかスーパーハカーだかと仲良くなっておけばこういうのも簡単に解決してくれるのか?」 あくまで自分の能力は最低で最高なこのアナログ世界におけるものでしかない。 ひとたび電波だの電子だのネットだの言われてしまうとどうしようもないのだ。 やれやれだ。 自分の無力さを噛みしめながら椅子に背中を預けて目を閉じる。 おっ、良い感じで眠たくなってきた。 キーーーーン なんだ、この妙な音は? どうやら後ろから聞こえているようだ。 くるりと後ろを振り返ってみるとテレビが砂嵐になっていた。 そうだ、さっきからつけっぱなしにしていたのだ。 テレビを消そうとテレビに近づくと画面の奥から何か妙な物が見えてくる。 「今日の死亡予定者 上田明也 左門恭二 下田憂晴 右衞門絹 本日の死亡予定者は以上です。」 「なんですと?」 迷うことなく村正を手にとった。 新品だったがテレビをざっくりと斬りつける。 テレビに刃物が食い込むか否かの瞬間、テレビから真っ黒な手が伸びてくる。 それはテレビを壊されてすぐに消えるかと思った。 どうせあんな手だけでは殺せまい、俺はそう思っていた。 ところがだ。 手は俺を狙うことなく“真っ直ぐに”パソコンへ向かった。 俺は自らの判断の甘さを恥じた。 黒い手が狙って居たのはそれだったのだ。 カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ 「――――――しまっ!」 「赤い部屋は好きですか? ニアYes or No」 パソコンの画面は真っ赤に染まった。 「野生の都市伝説が連携とか聞いたことねえぞおい!?」 ベゴン! ベゴン!ベゴン! ベゴベゴベゴベゴベゴ!! 部屋につぎつぎと赤い手形が付く。 どうやらやってしまったらしい。 「っざけるなよ!」 目の前のパソコンを切り刻んで破壊する。 だが赤い手形は増え続けている。 もうパソコンをどうこうしても駄目らしい。 部屋を出ようとした次の瞬間に扉が閉まった。 どうあってもここに閉じ込める気だ。 「つまりだ。」 そのことから、俺は一つの推論を得た。 ビュン! いきなり鉈のような物が俺めがけて振り下ろされる。 いや、鉈ではない。 鉈のような雰囲気のする何かが、と言うべきだ。 「――――――危ねえ!」 間一髪でそれを躱すと鉈が落ちてきた方向を見る。 「……何も居ない?」 確かに、赤い部屋は被害者を血塗れにして殺すがその方法は指定されていない。 つまり血塗れになるならば何でも良いのだろう。 スパッ そう思っていると腕が裂けて非常に良い勢いで血が流れ始めた。 まずい、対策を打たないと……。 そう思った俺はすぐに窓ガラスを壊して部屋を出ようとした。 「赤い部屋と言っても所詮は部屋。 つまりだ。 部屋じゃなくなればあいつは俺に手出しをすることは出来ない。」 バリーン! 華麗に窓ガラスを割って地上2階から飛び出す俺。 下に停めてある誰かのワンボックスカーに飛び降りる………、てあれ? 俺が飛び出した先には先程まで見ていた真夜中の町の風景は無かった。 「赤い部屋は……好きですか?」 広い部屋。 西洋風の広い部屋。 すこし違和感を挙げるとすれば調度も壁も真っ赤な所ぐらいか。 それが異常すぎる事態なのだが。 しかし俺はそれよりも部屋の奥の暗闇から覗く瞳の方が恐ろしい。 暗闇の奥に紅く光る瞳。 あれは一体何なのだ? 「赤い部屋は、本来人々のネットに対する希望や夢を詰め込んだ場所でした。」 悲しげな声が響く。 「何時からだったんでしょう、人々がネットに対して怒りや恨みなどの暗い感情をぶつけ始めたのは。 そうやって私は赤い部屋になったんです。 ここにはそういうネットを通じて人々がはき出したくらぁい感情のたまり場。 だから真っ赤に真っ赤に染まってしまった。 あなたもそうやって暗いところを覗き込もうとしたんでしょう? だから死ぬの。 間違いなく死ぬ。 深淵を覗く物はまた深淵に覗かれている。 それを忘れて貴方は人々が無限に繋がりあうこの電脳世界の暗い場所を見てしまった。 人々の悪意によって貴方は死ぬ。 私のせいじゃない、私にそれは止められない。 ――――――――――――死んで。」 ザクリ 肉が裂ける音がして自分の身体から血が流れ出る。 今度は足か、逃げることも出来ない。 どうやら俺は異世界に連れて行かれてしまったらしい。 異世界にジャンプできる都市伝説なら助けに来てくれるのだろうが……そんな都市伝説俺は契約していない。 無力な物だ。 こうやって対策を考えている内にどんどん血は流れ出していく。 まずい、これは死ねる……! 死ねる、が、まあ良い。 死ぬなら徹底的にあがいてからの方が良い。 すると案外幸運は転がってくる物だ。 「赤い部屋って、どんな都市伝説か知っている?」 「知ってるに決まっているじゃねえか。 被害者は血塗れで死ぬんだろ?」 「正解。だから貴方は即死しない。ゆっくりゆっくり血を流して死ぬ。 人間は本当に脆い。しかしそんな人間の思念が……、私を変えた。 私はもっと良い物として生まれたかったのに……。」 「良い物になることが喜びなのかい?」 「――――――あたりまえじゃない!」 「良い存在になるのが君の喜びなのか。」 「そうだよ。」 俺はわざとらしくため息をついて遠くにいる赤い部屋の主を挑発した。 「――――――――――――くだらねえ。」 こうなれば後は勢いだ。見せてやる、上から目線性悪説。 「全ての人々から喜ばれ愛される善なる存在?良い人?明るいインターネットの未来? バーカ、俺はそんな下らない物認めないぞ信じないぞ。 良い存在?善良なる存在?誰が決めた?誰が決める? それを決められるのは誰なんだ?そうだよ、お前だって解っているだろう? ………そうだ、それは決められない。 お前の価値を決定するのはネットに関わる人々全てなんだよ。 万人共通の幸福や万人共通の正義なぞ有るわけがない。 人は誰しもが不完全で不公平な自分だけの秤を数千年前――――お前が生まれるずっと前からだ、 プラップラプラップラ振り回してきているんだ! お前の在り方を勝手に歪められた? 冗談は休み休み言えという物だ。 世界に存在する全ての物は互いに影響を与えあいながら生きているんだぞ? そんな中で純粋培養された揺るぎない存在などあり得るはずがない。 お前の最初の願いですら恐らく誰かによって設定された物であってチッポケなお前自身の願いなど……」 どんな台詞も締めが肝心。 「――――――――――――――――――端から無かった。」 キリッ いかにも俺は格好良い台詞を言いましたよって顔をするのが肝要。 「……………うぅ、でも私は!」 それでも何か言おうとする赤い部屋の主。 しかし言葉は続かない。 「なんだ!なんだっていうんだ!答えられるか? いいや、お前は答えられないね! お前は自分という存在について自分で考えたことがない。 何になりたいかは考えても己が何であるかは考えてもみていなかった! そんなお前が答えられるわけゴォッッフウウウウウウウ!!!」 俺は勢いよく吐血した。 辺りがドンドン真っ赤に染まっていく。 DANDAN身体冷えていく! ……駄目だ、死ぬわこれ。 「…………大丈夫?」 赤い部屋の主がこちらに近づいてくる。 あ、意外と美人だ。 ロリコンじゃなければ……、いや、俺ロリコンだったっけ? うん、あれは合法ロリだ。 そういうことにしておこう。 「大丈夫なわけ無いだろうが!あと少しで死ぬわ! お前のせいだ!どうしてくれる! そうやってお前は何人もの人間を殺してきたわけだ。 俺もその中の一人になるってか?そうだろうな、俺の命は只今消失しそうだからな!」 「私のせいじゃない!そういう風に貴方達がしたんでしょう? 私は………。私は人を殺したくなんて無いし赤い部屋をもっと楽しいところにしたかった!」 「貴方達って誰だよ!人間か?下らないね、それこそ下らない。 人間程度に左右されてんじゃねえぞ!」 怒鳴りつける。 こちらが普通の人間じゃないと解っているらしいしついでに脅してみよう。 ちなみに彼女が俺に左右されているのに人間に左右されるなと説教されているのはかなり理不尽だ。 「ひぅうッ!」 ビクッとなった。 割と可愛い声しているじゃないか。 「まったく、俺を殺す割には大したことのない奴じゃないか。 楽しいところにしたいなら楽しいところにすればいいじゃねえか! 他人なんて関係無い!もっと!もっと自分で楽しいこと探してみろよ! 他人から与えられる物だけを娯楽として享受するような人格に、知性に、本物の娯楽なんて味わえない。 結局大事なのは自分だろうが! それともあれか?人間に依存する形でしか存在できない都市伝説だから人間の思うとおりにしか動けないってか? それなら誰か良く解らない噂じゃなくて俺に依存してみる気は無いか? きっと楽しい物が見られるぜ?」 立ち上がって赤い部屋の主を抱き寄せる。 赤い瞳、青みがかった髪、白い絹のワンピース。 なんだなんだとても可愛いじゃないか。 まあ合法ロリの範囲だ。 「もう一度言おうか、俺に頼ってみろよ。」 耳元でささやく。 細い首筋と滑らかな肌が触れていて心地よい。 「う、う、うるさぁい!」 もう半狂乱気味にわめく赤い部屋の主。 人間と話したことがあまりなかったのだろう。 しかし俺も時間がない。血がない。仕方がないし仕方もない。 彼女に対して仕上げを行おう。 「でもな、聞いてくれ。ここからが………、大切なんだ。」 「どうせなんか説教するんでしょう?ていうか何よ!なんでそんだけ血を流しているのに死なないのよ! おっかしいんじゃないの?死ぬんじゃないの?馬鹿よ!アンタ馬鹿!知らない、私は何も知らないんだあ!」 「そうだ、その通りだ。俺は馬鹿だよ。お前の言うとおりだ。」 「………え?」 「俺、子供の時はそこそこ良いところのお坊ちゃんとして育って居てさ。 家族も優しかったし友達も沢山いたしそこそこ幸せに過ごしていたんだ。 でも、都市伝説と契約する為にそれら全部捨てちゃった。 将来は弁護士にでもなってから親父の会社継いで人の数倍幸せな生活しようと思っていたのにだ。 なんでだと思う?」 「………あんたが馬鹿だからじゃない。」 「そう、そうなんだよ。でも………。」 おぅふ、マジで意識がなくなってきた。 ここからが勝負だ。 「でも?……でもどうしたのよ? 死んだの……?ねぇ、何か話してよ………。」 よし、良い感じで心配している。 このまま少し死んだふりしていれば良い。 おお、良い感じに傷がふさがり始めた。 出血死のタイミングはこいつが握っているんだからこいつに殺したくないって思わせれば上出来だ。 「……ああ、気を失っていたのか? どこまで話したっけ? そうだ、俺が馬鹿だという話だ。 その通り、お前の言うとおりに俺は筋金入りの馬鹿なんだ。 でもな、それでも欲しかった物がある。 たとえ馬鹿と言われても、どんなにねじ曲がった手段でも、目指す物がある。 愚かで結構、邪悪で結構、弱者で結構、なんであっても結構だ。 でも、譲れない物があった。お前にはあるか?俺にはそれがあるんだ。」 「な、何よ?」 「そうだな、愛………かな?」 おおくさいくさい。 うわ、赤い部屋の主も固まってる。 引いてるよこれドン引きされてるよ。 高校の頃ロリコンがばれかけた時と同じくらいやばいってばこれ。 しかしここで幼女とか言ったら呆れられる、それは冗談じゃなく俺の死に繋がる。 まったく困った話だよ。 「………愛なの?」 聞き返してきた。 どうやらまだなんとか俺は生きていて良いらしい。 「ああ、愛だね。都市伝説の力を俺が求めたのも全部それだよ。 俺はね、他人の心の痛みがわからないんだよ。 どれだけ必死になっても全く解らない。 言葉としては解るんだよ? でも実感としては解らない。 そんな俺には心の底から安穏とできる居場所なんて無かった! 他人の痛みが解らない人間だから他人に理解して貰えないなんてルールはないはずだ! 狂ってるよな、狂ってる。でも逆に考えればそんな自分の心の痛みを解ってくれる恋人がいればそれは何にも優先する。 だから、お前も俺と一緒に来ないか?」 「………今、恋人居ないの?」 「居ない。なってくれるか? なってくれるとすごく嬉しい。」 おお、外道外道。 返事はない。 代わりに契約書のようなものが目の前に落ちてきた。 すでに二つの都市伝説と契約しているけれど……、何故だろう。 俺の器はまだ広がる気がするんだよ。 サインに自らの名前を書く。 全身の血管が膨張していくような感覚だ。 脳髄が揺さぶられて内蔵一つ一つがひっくり返っているんじゃないか? ああ、吐きそうだ。酷い嘔吐感に俺は襲われて居るのか。 しかし、それでも、未だ俺が正気を失うことはない。 正気なんてとっくに失っていたか? それにしてもまだ自分が化け物じゃないって解る、良いことだ。 それにしてもどこまで都市伝説を突っ込めば俺の身体は破裂するんだ? 「ところでお前をなんて呼べば良い?」 名前というのは大事だ。 「好きにすれば?」 ぶっきらぼうに返事をされた。 ははは、愛い奴め。 他人に名前を任せるのは自らの在り方を決定されるような物だというのに。 「そうか、じゃあお前は今日から茜さんだ。とりあえずこの部屋から出してくれ。 愛しているぜ。」 やった俺、よく頑張った。 「ん、解った……。感謝してよね。」 かくしてこの俺上田明也は都市伝説の助け無しで赤い部屋からの生還に成功したのであった。 厳密には赤い部屋自身の能力で帰って来たのだが細かい所は良いんだよ。 【上田明也の探偵倶楽部5~真夜中の赤い砂嵐~ fin】 朝、目が覚めると俺は思いきり自室の椅子で眠っていた。 ネットゲームでいうと寝落ちだ。 面倒な事件もひとしきり区切りがついたのでとりあえず自分にナレーションをすることにした。 「……と、いうお話でした。 メルにはばれていません。 ばれたら修羅場です。 つーか俺の身体ってなんなんでしょうね? 知らない間に勝手に都市伝説に対する容量が増えているとかね。 俺は身体があると言うよりは生体都市伝説運用装置とでも言った方が良い状態みたいだしさ。 ほんとうにやっていられませんよ。 次回の上田明也の探偵倶楽部は豪華三本立て! オムニバス形式のお話を予定しております。 それじゃ来週もまた見て下さいね? じゃんけんポーン! グーの貴方はチョーラッキー! うふふふふふー……、ガクリ。」 カタ ヴィーン…… 急に目の前のパソコンが動き出す。 「あ/か」 まただ。 どうやらまだ俺を眠らせてくれないらしい。 「あなたは私のことが好きですか?」 やれやれ、といった感じで肩をすくめると俺はとりあえずイエスを押した。 【上田明也の探偵倶楽部 続く】